想い出の風景,あれと,これ,と。
ネットスケープ社は,ブラウザ「ナビゲーター」でマイクロソフト社のデスクトップ支配を突き崩そうとし,だが数年で活力を奪われ,マイクロソフト社の反トラスト法裁判の材料としてしか顧みられない存在となった。ネットスケープのブラウザーはもはや主流ではなく,AOLに買収されて企業としても存在していない。
想い出の風景というのは,誰にでもあるものだ。何気ない風景なのに,なぜか脳裏に焼き付いているような。…子供のとき,雪の敷き詰められた中を友人と歩いていた。なにが原因だったかわからないが,いさかいがあって,ポツンポツンと離れて,その雪の上を歩いていた。遠くまで続く白一色の世界,空にただ鉛色が広がり,離れたところにいる友人が歩いてくる。ただ,それだけの風景。なのに,ズキズキする心とともに目を閉じれば,あの風景が蘇る。
640x400ピクセルの14インチディスプレイ,航路をつかさどる舵が周り,天空の星が回る(過去記事)。ゆったりとした波に揺られるかのように,うっかり眠りについてしまい,目覚めるとやっとウェブサイトが表示されているようなままならない速度の中にいたが,ナビゲーターがなければ,なにも始まらなかった。その,風景。…AOLに買収され,すでにナビゲーターのコードを書いていた者は誰もいない。今となっては夢かと思う風景だったが,あの日に始まったネットスケープ・タイムは今も流れ続け,胸の中にあの日の風景が刻まれている。いや,ネットスケープは想い出じゃない,精神の主柱なのかもしれない。
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